樫原ドクターの教えて講座

vol.12 めまいと首の動き

椎骨脳底動脈血流不全症(ついこつのうていどうみゃくけつりゅうふぜんしょう)という病名を聞いたことはありますか。椎骨動脈というのは、頸椎の骨の中を通過して脳に血流を送っている動脈の名前です。7つの頚椎の左右の横突起を、それぞれ1本の椎骨動脈が串刺しのようにして頭蓋底の大孔という大きな穴まで上向し、そこで左右の椎骨動脈が合体して脳底動脈となり脳幹部、小脳、大脳の後ろ寄りに血流を送っています。

脳幹部は生命の維持に重要な部位であり、小脳は身体のバランス、大脳の後ろは視覚に関連が深いところです。したがって、椎骨動脈の血流が悪くなると、意識が無くなる、バランスがとれない、めまいがする、視力が低下(特に半盲といって、視野の右あるいは左が認識できなくなる)などの症状がでてきます。

さて、椎骨動脈の血流が悪くなる原因ですが、一つは動脈硬化です。文字通り動脈の内腔が動脈硬化で細くなったり詰まったりすることです。もう一つ重要なのは、椎骨動脈が通っている頚椎が変形して動脈を圧迫してしまうことです。この圧迫は、特に首を強く反らしたり、曲げたり、左右に回旋したりすると発生します。頚椎が変形している高齢者が、上を向いて急に立ち上がったりすると血圧の関係もあって脳に行く血液の量が低下し強いめまいや失神が生じることがあります。

結論ですが、高齢者は首の動きに注意が必要です。くれぐれも、梯子や脚立の上にあがって上の向く作業はしないようにしてください。意識を失って転落すると受身もできず、骨折や脳挫傷、脳内出血を生じて寝たきりになる危険をはらんでいます。下を向いて草取りをしている姿勢から、上を向いて立ちあがるのも危険なことがあります。めまいがしてふらつき、溝などに落ちて大けがをした患者さんを何人も診させてもらったことがあります。