樫原ドクターの教えて講座

vol.10 わたしの物忘れ人生、良いこともあります。

外来で診察をしていますと、70歳を過ぎた方々が受診されます。そうして、「最近、物忘れがひどいので、調べてほしい」とおっしゃいます。

ところが、わたしは小学生のころから物忘れが結構ありました。たとえば、休みの日にも学校へ通学して誰もいないのに驚いたり、また、帽子を被ったまま帽子を探し回ったり、簡単な漢字を忘れて100点を取り損ねたりしていました。その後も、暗記ものには苦労しています。いくつかの物を覚えるためには頭の文字を並べて呪文のようにしてみたり、忘れたものを思い出すのに「ああ、あい、あう、あえ・・・」と順に唱えてみたりしていました。最近は、その根気もなくなってきましたが・・。高校の時には、数学や物理の公式でさえ忘れてしまっていたので、時間をかけて公式を導いてから問題を解き始めるので、いつも時間が足りませんでした。そういう訳ですから、私は「覚えることに多大な時間をかけた結果」大学にも入学し、医師免許もいただいたという訳です。ですから、70歳を過ぎてから「物忘れが・・・」という方には少々腹立たしい感情を抱いてしまいます。

でも、物忘れの好いことも結構あります。人生、腹立たしいことにも出会いますが、少しすると殆ど忘れてしまい「何で腹がたったのか」分からなくなります。結果的に、腹立たしい時間が少なくてすみます。何かをやってやろうと大志を抱いても直に忘れるので努力をする必要がありません。人の名前や言われた用事を忘れるので、大きな期待を寄せられることもありません。そいうことで、自分の趣味に合った人生を歩みやすくなるのです。逆に、物を覚えすぎる人は、「あれもこれもしなければ」と、苦労がついてまわりやすいかもしれません。

以上、私の場合は若いころからの物忘れではありますが、一般の方では年配になってから物忘れを自覚することが多いのでしょう。物忘れは良いこともありますので、覚える仕事は若い人やコンピューターにまかせて、くよくよせずに御自分なりの物忘れ人生を楽しんでいただきたいと思います。