院長 林 秀樹 2004年8月8日 看護福祉学会での発表内容
「利用者が考える生活の質向上への取り組み」について

医療法人芳越会ホウエツ病院 理事長 林秀樹です。
本日は当医療法人が地域医療に対し取り組んでいる状況を提示し、利用者の生活の質の向上について問題点や新たに取り組むべき事柄が皆様に少しでも御参考になればと思います。また、ご意見等もいただければ有難いです。
利用者すなわち患者様の生活の質の向上を考える上でまず基盤となるのは、患者様の生活している環境です。まず当医療法人が位置している地理的環境と圏域の保健医療を取り巻く現状についてお話いたします。


図に示しますように徳島県は吉野川を中心として県西部、中央部、県南部の3つに分かれています。県の行政機関や医療の中心、救命救急センターは中央部に集中しています。当院は県西部に位置し、更にこの地域を2つに分けて、西部T、U医療圏と称されています。当院は西部T医療圏に属し、これはほぼ美馬郡全体と一致します。
美馬郡は5町2村からなり、当院はその中では最も人口の多い脇町にありますがそれでも2万人弱の人口です。先程の吉野川沿いの幅狭い平野以外は全て山間地域で、美馬郡の山間地域は全郡の面積の80.9%に及びます。
人口動態ですが、以前より徳島県は日本全体と比べ少子高齢化、過疎化が進んでいますが、その中でもこの地域は進んでおり、日本でもトップレベルの超高齢化社会です。目立った産業もありません。
主要な死因は全国平均と変わりませんが、糖尿病や結核といった疾病の罹患率が高く、県民への啓蒙の必要性が唱えられています。

先ほど示した人口動態からわかるように、生産年齢人口の低下と老年人口の増加が著しい超高齢化社会で、老人の一人暮らしや 老人の老人による介護が行なわれており、介護保険によるサービス体制にもまだまだ偏りが見られます。
母子保健体制も十分とはいえず、乳幼児の保育もありますが、女性が勤務するには不十分な体制です。
また、健康危機管理体制も充分でなく、自治体の各組織、保健所、各医療機関が集まっての計画的な想定訓練等はなされていないのが現状です。
ただ医療機関の数は人口あたりで多く、徳島県は全国でも医療機関数が多い県ですが、この地域はその県平均を上回っています。しかし何れもが小規模な医療機関ばかりで統一された医療連携が採れているとは言い難い状況です。
この西部T医療圏には二次救急病院で、高額医療器械の共同利用や開放型病床を有する医療機関が2箇所あります。町立半田病院と当医療法人のホウエツ病院です。当院はこの医療圏の東の端、半田病院は西の端に位置し地域を二分する形となっていますが救急車の搬送や患者圏はかなりの重なりを持っています。

山間部が多い当地域は、隣近所が皆どこかで繋がっている親戚関係であるような狭い地域性であるため、我々はサービスの提供者であり、同時にサービスを受ける利用者であると考え、すなわち患者様や家族の立場で考えることを基本精神として今まで事業を行ってきました。以上の様な状況で、当院がこの地域の中で利用者に必要な医療活動を行なう為に取り組んで来た事をまとめてみます。

当院の組織は大きく分けて3つあります。
一つは急性期医療を主に担当するホウエツ病院
二つ目は介護病棟を有し在宅医療および介護サービスを主に担当する林クリニック、三つ目は訪問看護ステーション です。
当院の歴史はスライドに示すとおりです。小生は、昭和63年に医療法人化した頃より父と一緒に診療を始めました。先ず行なったのは救急車を含め来院される患者さまは全て診させて頂くことです。この姿勢は今でも変わっていません。その上で当院のレベルを超えており、専門外の方は適切な医療機関へ送らせて頂きました。
さらに医療経済が困窮化、ゴールデンプランが実施されつつある中で、地域に根ざした急性期病院を目指して新築移転に踏み切りました。先程触れました通り医療機関が過密地帯で地域医療計画により病床数は増やせず65床のままです。2百床以下の中小病院は今後、経済政策で成立しなくなると言われ出した時代でした。
最も苦労したのはスタッフの充実です。どの医療機関も同じだと思いますが、特に医師を集めるのは大変でした。当初大学からの派遣に頼ろうとしましたが、医療に取り組む姿勢が地域の方々が望む視線とは一致しがたく、医局にはパート派遣をお願いし、常勤医師は自力で地道に求めて行く事にしました。今になり大学の研修制度が始まり、引き上げ医師による病院閉鎖が全国的に生じていますが、地域に密着した姿勢で取り組む当院のスタッフに感謝しています。
新しい病院の名前はホウエツ病院としました。地域の名前を入れた名称にしたかったので、この地域の俗称、ホウは 吉野川のよしの旧字、エツは高越山の越 をとることにしました。
また病院機能が増え、スタッフが増えるにしたがって、これまで取り組んで来た事が、いつの間にか途切れることがあり、全体でのサービスのバラつきが出だしたため、継続したマニュアルを職員全体で共有したく平成14年ISO
9001の承認を得ました。単なる認証だけではなく、実際に業務をこれに基づいて行なえるべく枝葉を築きつつあります。

当地域では先程述べました通り医療機関の数が多いのですが、何れもが小規模で、それを支えている各医師が高齢化しており、スタッフの数も少なく 毎年行なわれていた救急輪番制の打ち合わせ会でも辞退する医療機関続出し、結局は先ほどの2つの病院が残りました。決して当院が救急を行なうと名乗りでたわけではなく、当時の保健所の医師からも救急告示病院の取得をすすめられ、ご指示に従いました。
丁度ホウエツ病院が開設する時期とも重なり、当初ホウエツ病院の年間救急車受け入れ件数は120件程でしたが、翌年には倍増、その後も確実に増え3〜4年前頃より400件台、現在でも年間 500件余りとなっています。町立半田病院もほぼ同じ数であり、圏外からの搬送も全て状況の許す限り受けていますが、人口が4万8千人程の地区からの発生数としては妥当な数かと思います。
救急医療の質の確保のために、まず当院が行なったことは24時間体制で必ず診るという、小生が当地域で診療を開始したころからの、一貫した姿勢を全職員に徹底するということでした。当初より救急隊の方々からは当院の常時受け入れ確保する体制を善意的に見て頂き、全国各地で問題となる金銭のやり取り等での数の確保などは全く無縁でした。
約4年前より専用のホットラインを設け、常時医師か看護師が取れる体制を継続しています。救急車が来る場合、当初の搬入確認の電話以後は現場から逐次、ホットラインで情報が来ます。また当院のレベルを超えた状態の患者さまは救命センターへ搬送するのですが、この場合も救急隊は非常に好意的に対応して頂けます。ただ救急救命士の方たちが受ける研修の中には、すでに5年以上も前からヘリ搬送が救急搬送手段に入っており、医療機関との間にはワークステーションを築く事を目指すとあります。ところが現実の救急医療を掲げる医療機関や消防組織の取り組みはそれとは程遠く、小生でさえその体制の遅れに憤りを感じていました。

当院のような周りが山間部に囲まれた地域では、救急車の搬送には限界があります。僻地が多い故、救急事例発症から救急車の現場到着、さらに病院到着までの時間はどうしても長くなります。都市部で発症した心筋梗塞は救命でき、同じ程度の心筋梗塞でも山間部の場所によっては救命できない事態が起こりうるのです。
当地でも早い時期から高規格救急車が消防署に導入されています。何と導入の当日から心肺停止状態の患者さまが搬入され、当院で救命処置を行なった後、県立中央病院の救急救命センターへ搬送する事例がありました。心臓マッサージをしながら片道 40分間の長かった事、その時に帰りの救急車の中で、当地での搬送には やはりヘリが必要だと救命士さまたちとも話した事です。
こんな中で当院がヘリポートを設置した事も自然の流れと言えます。昨年4月28日徳島県消防防災へり「うずしお」の離着陸訓練を行い、その6月から実際に稼動しました。昨年のヘリ搬送の殆んどは当地区の最も僻地、剣山からの患者さまで、県外からの観光客でした。航空隊の方々からも県内で初めての医療機関内にヘリ離着陸場がある利便性を高く評価されました。
再来年には救命センターである徳島赤十字病院にもヘリポートが設置されます。当地域の患者さまへのサービス向上を大きく期待しています。
また、救急搬送の質の向上のために、当院全職員全部所と消防署の方たちとで隔月、救急症例検討やACLSなどの勉強会を行い、現場での意見交換や知識の向上を図っています。また近隣の消防からも受け入れが増えつつあり、この勉強会にも積極的に参加されています。勉強会をすることで、当院と消防署救急隊との間の顔と顔の関係が深まり、連携をスムーズにして救命率をあげることにつながっていると思います。

平成10年4月より当院より南の剣山に向かって約30km山麓に入込んだ山間の僻地、木屋平村より診療応援を要請されました。診療所へ行く途中、車窓からの景色です。《閑定(かんじょう)の滝、@桑の実、@木屋平診療所 @ねむの木》

その診療所、当院から派遣の石井医師の診察風景です。
診療所では普段、月曜日から木曜日は自治医大の卒業生が診療をしており、週末の金曜、土曜日の診療依頼でした。当院自体、医師の業務は手が足りず、ギリギリの状態でしたが、困っているのをじっと見て居られる者は誰も居ず、皆賛成の下で、交代で応援に出掛ける事となり、現在も引き続いています。

診療所からさらに山奥の患者様宅まで訪問医療を行なっていますが、救急時には搬送される病院までかなりの距離になり、ヘリ搬送が行なわれる症例もあります。

ホウエツ病院で治療した救急患者様や、入院患者様は退院後できる限り自宅に帰したいとの考えで、林クリニックでは医療保険の時代から通所リハビリを始め、介護保険対象となった今でも続けています。

また、重度の身体機能障害の患者様が多いため、医療保険下での開設当初より個別リハビリを行い退院してもさらにADLの向上が見られる患者様もいます。最近介護保険でも点数化され、認められるようになりました。

訪問看護は、林病院の時代から行なっていましたが、県下で32番目ながら、訪問看護ステーションとして立ち上げました。訪問看護ステーションは、旧林病院、現林クリニックの道を挟んで前にあります。法人を離れて活動してほしい願いから、病院の敷地外に建てました。開設当初よりリハビリを重視し、理学療法士によるリハビリを行なっていますが、当初理学療法士の数の確保が難しく、看護士も研修を受けて簡単なリハビリを実施しています。
訪問看護ステーションのメンバーです。左から栄養士、看護師3名、理学療法士3名です。このうち3名がケアマネージャーを兼務しています。

救急の受け入れを24時間体制で行なうことと平行して、往診もお断りしない体制で取り組んできました。病院を退院されて在宅介護となった方たちに不安を与えないための定期的な訪問医療や、林クリニックのみでなくホウエツ病院にかかられている患者様の急変時には、クリニックから往診する体制になっています。

どうしても山間部の訪問が多くクリニックから患者様宅まで20から30分以上を要することが常です。
在院日数の短縮化が唱えられている現在、終末期医療を含め、訪問医療は重要な位置を占めています。癌末期の在宅での看取りのみならず、当地域で多いといわれている在宅酸素の患者様への対応も林クリニックと訪問看護ステーションみやので行なっています。

訪問リハビリは主に理学療法士により、訪問看護ステーションから行なっています。当地域は山間部が多く、肢体不自由な高齢者は交通手段もなく、病院への受診をすることが困難です。
病院を退院した後のADLを保ちまたADLの向上のために、訪問リハビリもまた重要で、家族の方たちからも喜んでいただいています。

生活の質の向上のためには、患者様の満足度を高めることが重要です。当院はまず救急救命に取り組んで来ましたが、患者様のニーズに応えていくうちに、僻地医療や在宅医療、介護保険事業にも関わりが必要となりました。またホウエツ病院では検査機器をいかして人間ドックや検診事業も行なっています。
検診で疾病予防を図り、病気は発症早期に治療をおこなう。治療後は早期に離床、退院し、ADLの低下をきたさないよう保健・医療・福祉の協力のもと患者様のケアを行なう。そして死にいたるまでの患者様の人生に少しでもかかわり、満足した人生を送っていただけるためのお手伝いをさせていただくことが、当医療法人の使命であると考えています。
御清聴ありがとうございました。